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「こんにちは、ルパン」
さりげない風を装って、その実瞳をいつにもましてキラキラときらめかせて不二子が入ってきた。
こんな眼をしている時の彼女は気をつけた方がいい。
「よぉ不二子、今日もまた一段とかーわいいね」
椅子の背に体をいっぱいにもたれかけてルパンが言った。
次元は振り向きもせず銃を磨き、五右ェ門は窓の外を見ている。
「ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど」
不二子はテレビに近寄るとバックから出したビデオをセットした。
再生されたのはニュース番組だった。派手派手しく飾られた豪華客船が映し出されている。
「長い間独身として有名だった大富豪、ジャン・ドーレン氏がついに婚約を発表しました」
画面にはロマンスグレイの上品な紳士が映し出されていた。
魅力的な笑顔を振り撒いてはいるが、手にした杖に体のほとんどを預けているのが分かる。
「はぁ〜、ドーレンちゃんもとうとう年貢を納めちゃったのね」
幾度かターゲットとして狙おうと思ったこともある。しかし金はあるがコレクションはたいした物を持っていなかった。
「このドーレンちゃんから何をいただこうっての?」
「慌てないの。この次よ」
不二子は興味なさそうなルパンの顔を画面に引き戻した。
「幸運な花嫁はシャーリーン・グレンビリア嬢。社交界ではまったく無名のシンデレラです」
美しく、どこか悲しげな面立ちの女性が少し困ったような目でカメラを見ていた。
ドーレンとは下手をすれば親子ほども年が違うかもしれない。
「か〜、こんないい女がねぇ。も〜ったいね〜〜」
「ま、相手がお金持ちだもの。気持ちは分からないでもないわね。それよりももっと良く見て」
不二子に促されて、次元までテレビを覗き込んだ。
「この船は彼女の希望でね。これで新婚旅行は世界一周するんだよ」
油の落ちたしわ深い顔をくしゃくしゃにしてドーレンは笑った。
「この豪華な船にたったお二人で…。豪華ですねぇ」
レポーターは半ば呆れたように船を見上げている。カメラはその視線を追うように船を映し出した。
「…あらぁ?なんだこの物々しい警備は?」
二人の脇にいるだけでなく、舟のヘリまでも警備員が目を光らせている。
大金の入っている金庫でもない限り不自然すぎる光景だ。
「まーさかたかが新婚旅行で大金積み込んだりしねーだろ」
「ええ、もちろんお金なんか積んでないわ。でも、もっと貴重なお宝が積んであったとしたら…」
不二子の目がきらりと光った。
「この物騒な警備は彼女・シャーリーンが依頼したんだそうよ。
船の中央には特性の金庫まであって、その周りは赤外線センサーの網まではってあるらしいわ」
「するってぇと、獲物はあの花嫁が持ってるってのか?」
「そう。ルパン、"イブの林檎"を覚えてる?」
「イブの林檎?…て、あの伝説の宝石のことか?」
「ああ、大泥棒・ジミー・ペシがお守りみたいに持ってたあれかい」
次元がやっと興味を持ったように手を打った。
「そ、大泥棒・ジミー・ペシが最初の仕事で盗んで以来肌身はなさず持っていたあの宝石よ」
「でもアレは奴が死んでから行方が分からなくなってるんじゃなかったか?」
「そうよ。でもね、彼には娘がいるって噂、知ってる?」
不二子は得意そうに肩をあげた。その様子にルパンと次元は一斉にテレビ画面を見た。
「まさか、このシャーリーンちゃんがそうって言うんじゃないだろうな」
「あんまり確かなことは言えないけどね。でもその可能性は高いわ。
それにあの警備…ただのものを運んでるとは思えない」
不二子の眼が猫のように光った。
「どう?興味出てきた?」
「んふふ、面白そうじゃない。伝説の"イブの林檎"、味わってみたいねぇ」
ルパンの眼が愉快そうにきらめいた。次元も思わずニヤリと笑う。
陰謀を楽しむ静かな沈黙が部屋を満たしはじめたその時…
突然テレビが大音響と共に爆発した。ビックリしてすぼめた肩をそのままに振り向くと、
ブラウン管に斬鉄剣を鞘ごと突っ込んだ五右ェ門が立っていた。
「んだよもービックリしたなぁ!何のつもりだ五右ェ門!」
「その宝石には手を出すな。あれはお前たちには不要のもの」
「なんだ?何か知ってるのか?そりゃ一体どういうことだ」
しかし五右ェ門はうつむいたきり口をつぐんだ。
「なんだ?だんまりか?なんにも言ってくれなきゃなんで頂いちゃいけねーんだか
わかんねーじゃないか」
五右ェ門は答えない。
「なら、俺達が仕事にっかっても文句はねェよな」
「……俺は、下りる」
五右ェ門はそれだけ言うと部屋を出た。残された3人はその背中を見送ったまま黙っていた。